11月30日 ロシアの偉大な指揮者であるマリスヤンソンスが76歳で亡くなったと報じられた。
かのカラヤンにも師事し日本にも数多く訪れた。私は2001年から2004年の間米国ピッツバーグ市に住んでいたが、その時たった一度だけ彼の指揮するラフマニノフのシンフォニーを聴くことができた。マリスはその時ピッツバーグシンフォニーの首席指揮者を務めていたのだ。首席指揮者とはいえ、そう易々とステージに上がる訳ではなかったようだが、運良くその日のチケットが手に入った。とても寒い冬の夕暮れに家族4人連れ立って路線バスに乗り込んだ。バスストップからしばらくクリスマスのイルミネーションが輝く街並みを歩いた。
夕刻から降り出した雪がアスファルトの路面を濡らし,行き交う車のヘッドライトを映し出していた。ホールに到着すると、着飾った多くの観客が開演を待っていた。そしていよいよ開演。演題はシンフォニー2番ヴォカリーズ、第一楽章、第二楽章が終わり、第三楽章が始まった。有名な切なくメロディアスな旋律が始まった。その時、急に自分の全身の皮膚に鳥肌が立つのがわかった。決して感情的すぎず、しかしながら機械的でもなく心の奥底を揺さぶる演奏に、自分の心と身体が勝手に呼応した。音楽とはこれほど人の心に入り込むことが出来る芸術であったとは。自身の経験の浅はかさを恥じ、そして音楽の深みに感じ入った一瞬。
冬になり、クリスマスソングが街に流れる季節になると、決まってあの一瞬が蘇る。
あの時小学生だった子供たちはもうとっくに成人した。もちろんあの時を覚えてはいまい。それでもこれからこのような感動に幾たびも出会うのだろう。そうして人生を深めて行くはずだ。
あっという間に20年近くの月日が流れたのだな、と夏目漱石の夢一夜に出てくるセリフを気取ってみる。人生は決して長くはないが、生きるに価値のある道のりだ。
福島市 土湯