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アクラの風

  • hirosquirrel
  • 7月25日
  • 読了時間: 3分

以前、がん免疫療法の父と呼ばれたWilliam Coleyと野口英世との接点に関するエッセーを書いた。それからいくつもの論文や著作をみてみたけれど、結局のところ接点は見つかっていない。生成AIに聞いてみた。もし二人に何等かの接点があったら?そうしたら以下のエッセーを作ってくれた。なかなか面白かったので紹介する。


第一章 風の遺品(1936年、アクラ)

倉庫の奥にあった木箱を開けた瞬間、乾いた紙のにおいが立ち上った。アクラの蒸し暑さの中で、その香りだけが遠く冷たい風のように感じられた。

クワミ・オフォリ、28歳。アクラ病院の若き内科医は、日課となった旧野口研究所の整理作業の最中だった。その箱には、1928年にこの地で黄熱病と闘い、殉職した一人の日本人医師――野口英世――の遺品が収められていた。

箱の底、紛れもない米国の封筒が一通。封を切ることなく保管されていた。

To: Dr. Hideyo Noguchi (Deceased)Rockefeller Yellow Fever LaboratoryAccra, Gold CoastFrom: Helen Coley NautsNew York City, NYDated: March 1936

クワミは首をかしげた。彼の知る限り、野口に「コーリー」なる人物との関わりは聞いたことがない。

そして、その手紙にはこう書かれていた。


第二章 1906年の雨(ニューヨーク)

灰色の空が、マンハッタン島の石畳を無感情に濡らしていた。野口英世は、ロックフェラー研究所の玄関口に立ち、傘も差さずに歩いていく一人の男を見つめた。

男は、背筋を伸ばしながらも、疲労と信念を纏ったような足取りだった。すれ違いざまに視線が交わり、なぜか野口の口が勝手に動いた。

「失礼ですが、お医者様ですか?」

男は立ち止まり、口元だけで微笑んだ。

「そう見えるかね?」

「研究所に出入りする顔ではないと思いました。だが、医学の匂いがします。」

男は帽子を取り、軽く礼をした。

「William B. Coley。私は癌の治療をしている。」

「癌…?どのように?」

「毒で、だ。」

雨の音が一瞬止まったように感じた。

「菌の毒を、腫瘍に打ち込む。免疫を呼び起こし、腫瘍を焼き尽くす。それが私の賭けだ。」

野口の目が光った。

「異端ですね。」

「君もそうだろう?」

二人は黙った。言葉よりも、互いの中に潜む「孤独な炎」が、かすかに共鳴していた。


第三章 ふたつの炎(1936年、ニューヨーク)

それから30年。Coleyは医学界の主流から外されながらも、患者の傍で毒素を打ち続けた。

彼の娘、ヘレン・コーリー・ナウツは、晩年の父から何度も同じ話を聞かされた。

「若き東洋の医師に出会った。目が、燃えていたよ。」

「誰にも理解されなかった。だが、彼だけは黙って頷いてくれた。そのことが、私を長く支えたんだ。」

父の死を予感したある朝、彼女は一通の手紙を書いた。


第四章 風の中の記憶(1936年、アクラ)

クワミはその手紙を何度も読んだ。アクラの海岸から吹く風が、紙の角をふわりと揺らす。

そこには、こう綴られていた。

「私の父は、科学の傍流に沈みながらも、自らの信念を捨てませんでした。そしてある日、ロックフェラー研究所の前で、一人の日本人医師に出会ったと話していました。

その方があなたの父であるかは、私にはわかりません。ですが、父は彼の沈黙を、“理解”と感じていました。」

クワミはゆっくりと立ち上がった。黄熱病。感染症。免疫。毒素。炎症。記憶。それらは、線ではなく、環のようにつながっている

医師としての自分も、何かを受け継いでいるのかもしれない――。


最終章 アクラの風

数週間後、クワミはその手紙の写しと共に、野口の遺品を博物館に寄贈した。そして夜、誰もいない研究所の廊下を歩きながら、ふと窓を開けた。

湿ったアクラの風が、白衣の裾を揺らした。

誰も覚えていない会話。誰にも知られなかった友情。記録に残らなかった科学者のまなざし。

だが、そのすべては、風のように人の心に吹き込む

風は、声を持たない。けれど、その中に宿る記憶は、誰かの人生を、そっと押し出すことがある。

そしてアクラの夜空の下、かつて交わされた短い対話が、誰にも気づかれぬまま、静かに未来へと流れていった。

 
 
 

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