ある年の冬,自分のやりたいこと,生きていく道に戸惑い,旅に出た.たどり着いた街には,その街には似つかわしくないくらい大きな二つの川が悠々と流れていた.川のみえる丘の上に座って,これまでの生きてきた道を想った.そしてこれからどうしようかと思い悩んだ.毎日丘に座り,いろいろなことを考えた.時は過ぎたが,川の流れは変わらずに悠々としていた.自分の生きることについての名案は浮かびはしなかったが,時は流れ,春が来た.ある日,ふと母親の声が聞きたくなって,電話をした.まずは,長い間の留守を詫びた.母は言った.今日は誕生日だね,それからあんたは知らないかもしれないが,今日は弟の命日でもあったんだよ.と.自分が幼かったころに命を無くした弟の命日など知る由もなかった.おまえは弟と二人で一人.ふたつの命が重なっておまえのひとつの命になった.そう思っているよ.母親は明るく話しをしてくれた.電話を切ると,丘の上に立ち上がってあらためて川の流れを見つめた.二つの川は遠くで大きな一つの流れとなって,益々悠々と流れていた.もう少し生きてみようと思った.二人で一人なら生きていかなちゃならない,何故かそう思ったし,二つの人生,ひとつにして生きていくのは悪くないと思ったのだ.
その場所がThree Riversという名であることは,後から知った.
これはだいぶ前に書いたフィクションとノンフィクションの混じったエッセー。あの震災から10年を迎える今日、多くの失った方々を想い、残された方々を思う。皆、誰かの命をおもって、生きていく。私もその一人である。
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